第11章 セカンドヴァージン

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「うん、表情はあんまり当てにならないよ。本人も上手く表現できないってこともあるけど、他人のを読むのも不得手だね。不思議な印象与えるだろ?表情もだけど、言葉とかもぎこちなくて違和感があるっていうか。あと、目も合わせづらい」 「お前本当に詳しいな」 俺は感心した。いくらお姉さんの子どもがそうだからって、岡野が育ててるわけじゃないだろうに。 岡野は素っ気なく肩を竦めた。 「結構勉強した。本も何冊も読んだし…。あのさ、あれって遺伝関係あるんだよ。自分と配偶者と、双方の家系にそれっぽい人がいると割と出やすいみたい。てことは、うちの家系には素因があるってことだろ。そう思うと将来的に他人事でもないし…。まぁ姉も捌け口が欲しいっていうか、聞き役が必要みたいで時々すごい長電話ガーッとかけてくるしね。あとメール。愚痴聞くくらいしかできないからな。それで自然と知識も増えた」 「そうなんだ…」 何とも言いようがなくただ相槌を打つ。 「障害の有る無しと別れる別れないは関係ないと新崎は思うかもしれないけど。勿論菜摘ちゃんの気持ちが一番大事だし、気持ちがその人から離れてるのに無理にそばにいるのもよくないとは思う。でも、普通の人相手の別れ話と較べるとデリケートな側面があることは確かだよね。だから、菜摘ちゃんが慎重になっても無理ないと思うし、それがお前への気持ちの大きさと直結してるわけじゃないってことは理解してあげた方かいいかも。…まぁ、もしかしたら時間かかるかもしれないけど、大丈夫だろ。だってまだ振られてないんでしょ?」 「…と、思うけど」 岡野は人の悪い笑みを浮かべて俺を見た。空のペットボトルの蓋をきゅっと閉める。 「菜摘ちゃんなら、振る気があるんなら絶対迷ったりしないでしょ。瞬殺じゃない?待たされてること自体、お前に幾ばくか気持ちがあるってことだよね。焦るのも無理ないけど、少し気長に待ってあげてもいいんじゃないかな」 「…新崎さぁ」 いつも通り、リビングで翻訳の共同作業をする菜摘と俺。あれ以来どうなのかな、と週末明けたときはちょっと不安だったけど、月曜日会った菜摘は全くいつも通りだった。拍子抜けはしたけど、速攻振られるとか気まずくなるとかよりはいい気がして、とりあえずほっとした。がしかし、状況が改善したり前進したわけではない。むしろ宙釣りというか、生殺しな状態であることに変わりはない。
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