第11章 セカンドヴァージン

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それでも、結局あの話はどうなったの?ともなかなか訊けず、何事もなかったかのような平常運転の菜摘に合わせるチキンな俺。まぁ、あんまりいちいちどぎまぎしてても翻訳の仕事も進まないし…。 黙々と各々の作業に集中する二人だったが、突然ぼそっと菜摘が口を開いた。 「…なっ何?」 思わずドキッとして身構えてしまう。こっちのどきどき感をよそに、彼女はにこりともせずに思いがけないことを口にした。 「そう言えば、そっちの高校時代の話もしなよ。わたしにばっか話させて、ずるいじゃん。ただひたすらありさに報われない片思いしてただけで特筆する事態なし?だったら別に聞いてもしょうがないけどさ。面白くもないし」 結構失礼! もうちょっとマシな言い様ないのか。 「三年間ありさに相手にされずに終わっただけ?…あれ、二年の時に同じクラスになったんだっけ?一年の時は?…何もなし、か」 手も目も止めずに片手間で訊くなよ。俺は正直むくれた。 「興味ないんなら別にいいだろ」 「あるよ、興味。訊きたいから訊いてんじゃん。何で訊いたら駄目?わたしだって新崎のこと知りたいよ、やっぱ」 どうしてそんなキュンとくること言ってくれてる時、無表情で作業中なのさ…。 真面目に取り合うべきなのかどうか判断できず戸惑っていると、菜摘が不意に顔をあげて大きな目をまっすぐ俺に向けてきた。 「わたし、ちゃんと正直に話したよ。新崎も教えてよ。会う前のことだって出来たら全部知りたい。おかしいかな、そんなの」 「…おかしくないです」 俺は吸い込まれそうな瞳をひたと見つめて真剣に答えた。何だって話しちゃる。まぁそれほど大したことは。…ない、けど。 「で、一年の時は?誰か好きな人、いたの」 何で目線を逸らして即作業に戻る!…とは思ったけど。まぁこれは菜摘なりの照れの現れなのかもしれない。と好意的に考えることにした、とりあえず。 「ええと…」 「いたんだ」 何で言い淀んだ瞬間にわかるんだろう。あんな聞いてるか聞いてないかもわかんない態度なのに。 「いました」 「片思い?」 「いや…、付き合ってた。なんか、向こうから言われたから…」 菜摘はちらっと片目をこっちに向けた。 「どこまでいったの」 俺は内心のけぞった。そんなことまで訊くの?結構突っ込んでくるじゃん! 俺は渋々答えた。何でこんなこと、好きな女の子に。割と恥ずかしい。 「…途中まで…」 菜摘がはっきりと眉を上げた。
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