プロローグ

2/3
前へ
/51ページ
次へ
恋なんて、なんとあっけないものだろうか。 30歳という、不安を目一杯抱えた年齢を目前にして、気付くことになってしまった。 恋が終わるとき一番辛いことは、相手を嫌いになることではなく、相手に興味がなくなることだと、昔本で読んだことがある。 まったくその通りになった。 彼以外に何の興味もなかったのに、もはやなんの感情もわかない。 怖い。自分で自分が怖くなった。 狂おしいほど彼を求めたのに。 彼以外何もいらない。彼が死んだら私も死ぬ。 彼のことだけで体中が埋め尽くされていた。 なのに。 これは一体何が起きたのか。自分でも自分が信じられなかった。 こんなにも人の気持ちというものは、潮がサーっと音を立てて引いて行くようになくなるものなのか。 私も大人の女になったのね。そんなことを考える気持ちの余裕まで出ていた。 たしかに、この一年間は低空飛行を続けているだけだった。 私にはもう愛情なんてなくなっていた。 でも一人になるのは嫌だから、次が見つかるまで。 お金持ちという価値だけが残り、最後にプレゼントでもたくさんもらってからサヨナラしよう。 それくらいの打算がなんとか関係を繋ぎ止めていた。 彼は絶対に一緒になると言い、私を引き留めた。 でも、一緒になれないことなんか、本当はもっと前から知っていた気がする。 それでも、信じていた。 一緒になれない現実を受け入れないようにした。 彼は頑張っている素振りを見せてくれた。 素振りではなく、本当にそうしていたと思う。 けれど、その夢は叶えるにはとても厳しく、現実味がなかった。 でも、彼は口が裂けてもそうは言えなかったのだろう。 私を手放したくないという心の裏側も、見え隠れしていた。 本当は、それも気付いていた。 だけど、気付かないように自分自身に言い聞かせていた。 だって、彼のことしか愛していなかったから。
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加