プロローグ

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結婚出来なければ、別れると通告していた。 もう充分時間は与えたと思う。十分過ぎるくらいだ。 8年間も。 これ以上は待てないと、タイムリミットを設けた。 2014年の3月一杯。 これが最初の結婚の約束のタイムリミットだった。 私の誕生日は11月。 2013年11月、私は28歳になり、次の誕生日までには一緒になりたいと願っていた。だから、この約束を強調し、彼もそれを受け入れた。 「うん、分かったよ。頑張るから、美香もくじけないで待っていてね。」 「あと半年しかないよ。大丈夫なの?」 「これまで美香と一緒になるために頑張ってきたんだ。大丈夫。美香は俺のお嫁さんになるんだよ。」 「あきちゃん、嬉しい。」 「絶対幸せにするからね。」 3月をタイムリミットにしたのは、彼の誕生月というのもあったが、それよりも彼にとって大切なイベントがあったからだ。 「頑張るから、もう少し辛抱してね。」 「3月になったら娘が大学卒業するから、そこまで待ってね。」 このセリフ、一体何回聞いただろう。 信じていた。愚かなほど純粋にこの言葉を信じていた。 「もう4月になったよ。」 「分かってるよ、ごめんね。」 「3月一杯って言ったよね。嘘なの?」 「そんなことない。俺だって頑張ってるよ。」 「何なの、こんなに待たせて、更に待たせるの?何にもしてないんじゃないの。」 「美香までそんなこと言わないでくれ。」 普段は穏やかで優しく楽観的な彼。 けれど、電話越しの口調は少し苛立ちを含んでいた。 2014年4月。 彼もきちんと頑張ってくれているのだ。 だから、うまく進まない離婚の話にイライラしてしまうのだ。 私はそう咀嚼した。 「本当に話してくれているのよね。」 「もちろん。」 今思えばこの時、希望という細い糸がプツンと音を立てて切れたのだ。 そして、純粋に待ち続けていた可愛い可愛い23歳年下の恋人は、 純粋無垢な仮面を付けた冷めた女に変わった。
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