セカンド

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大学時代は有名なアメフトプレーヤーだったと自慢する男は、それを彷彿とさせる軽快な足取りでバス乗り場の方へ歩いて行った。 2月の日本はまだまだ寒いけれど、台湾は春めき、すこし汗ばむような気温と日差しだ。 日本から来ていったフードつきのペールピンク色のウールコートはすぐに脱ぐ羽目になった。 春節の空港は、観光客よりも台湾人や中国からの渡航者ばかりで賑やかだ。実家に帰ってお祝いなどするのだろうか、とぼんやり考えた。 市内へ向かうバス乗り場は、大きなキャリーバッグを引いた人たちがずらっと立ち並んでいた。聞きなれない中国語が飛び交っている。 「すごい列だな」と男は言った。 いつも通りずる賢い考えをしているのは分かった。 さりげなく列に入ってみたものの、若い女の子の集団に中国語で苦言を呈された様だ。 男は流暢な中国語で返答した。何と言っているのかは分からなかった。 「あー、ばれちゃった」と、にやっと笑って、列の後ろに並び直した。 この飄々とした態度が、どことなく安心感を覚える。 何か起きても切り抜ける図太さと賢さがあり、男の性を感じさせるのだ。
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