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キミは気づかない。
幼い頃からいつも一緒で、妹みたいな存在で。
キミが転ぶと、いつも慰めるのはボクの役目で、泣きやまないキミをおぶって帰ったこともあったね。
兄妹のように並んでいた身長もいつしかボクがぐんぐんと抜いていって、キミは少し背伸びをしてボクの額に手を当てる。
「あー! ずるいよ大ちゃん! 私にも身長分けて!」
同じ環境で、同じ時間を共有して、同じように育ってきたのに。
こんなにもキミとボクは変わってしまった。
キミは恨めしそうにボクの顔を睨む。そして悪戯っぽく、「ぷふっ」と柔らかい笑みを浮かべるのだ。
いつからだろう。その笑みが、口元に当てた細い指先が、ボクよりも小さくなっていく体が、流れる髪が、キミのその全てが愛しいと感じるようになってしまったのは。
「まだまだ大きくなるよ。美園なんかこ~んなちっちゃく思えるくらい。どんどん頭が撫でやすくなっていくね」
いつものように微笑んで、キミの頭をくしゃりと撫でる。「わっ」と驚いたキミは少し不思議そうにボクをポカンと見つめた。
君は気づかない。
本当はこのままキミの腕を引っ張って抱き寄せたい。キミにもっと触れたい。幼なじみじゃなく、兄妹でもなく、キミの特別になりたい。
そんなボクの思いに、キミはどうしようもなく、気づかない。
頭に置いた手にぐっと力を込め、ボクを見つめるキミの視線をシャットダウン。さっきよりも少し乱暴に撫でると、キミは「わーっ」とまたしても驚いた声を上げた。
そしてもう一度、楽しそうにふふっと笑うのだ。
「もう、髪がぼさぼさになるじゃない! 枝毛になったらどうしてくれるのよ!」
わざとらしくぷんぷん怒るキミの頭を、もう一度だけ、これで終わりだと、優しく撫でる。
「ん~。そうだな。その時はボクが責任とるから、心配しないでよ」
顎に手を当て、わざとらしく提案してみる。幼なじみから抜け出せない、弱虫なボクの精一杯だ。
「責任って何よ! ジュースでも奢ってくれるの?」
わくわくと見当違いなことを言い、顔を輝かせているキミを見ると、たまらなく愛しくて、たまらなく焦れったい。
「……美園はずるいよね」
ぼそっと呟くボクに、キミは真面の笑みを浮かべる。
はあ、とわざとらしく息を吐いてみると、キミは可愛らしく首をこてんと倒した。
やっぱり今日もキミは気づかない。
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