畑の下には――(ホラー編)

2/3
前へ
/18ページ
次へ
農夫のゲイリーは三十路を迎えて未だ独り身。毎日を農作業のみに費やし生活している。 この日の朝も、粗末な一軒家を出て冷たい井戸水に震えながら歯を磨き顔を洗うと、冬野菜の収穫を終えた畑に向かった。 散乱する野菜屑を片付けると、春の種蒔きに備えて土を耕し始める。 すると、小さな土塊の中に何やら光る物を見付けて、彼は鍬を振るう手を止めた。 拾い上げ、軍手の指で土を取り除いてみると――黄金に輝く指輪が現れたではないか。 「こいつは凄い!誰かの落とし物か?」 指輪のサイズから女物と知れたが、蛇の形を模した意匠を見るに随分古い時代の物と思われる。 「大昔の遺物?それなら、このまま貰っちまっても――」 女物だが小指になら入りそうだ。欲に駆られるままゲイリーは土塗れの軍手を外すと、左手の小指に黄金の指輪を嵌めてみる。 「へへ、ぴったりだ。毎日朝から晩まで働いてんだから、これくらい罰は当たらねえよな」 卑しい笑みに口元を緩め、そのまま軍手を着け直すと、ゲイリーは鼻歌混じりに作業を再開した。 只管に、只管に。彼は土を掘り耕す。 その夜。畑仕事を終えて帰宅し、夕食後に暖炉の傍で寛いでいたゲイリーは、疲労からそのまま眠ってしまった。 深い寝息が室内に響く中――バチッと音を立てて爆ぜる暖炉の赤い火を映し、小指の蛇が怪しい輝きを放つ。 ――はやく、ワタシを……。 燃える火の中にほんの一瞬、女の幻影が揺らめいたのを、部屋の隅に蟠る宵闇だけが見ていた。 翌朝。冷たい井戸水を汲み上げて洗顔を終えると、寒さに身を竦めつつゲイリーは畑に向かう。 昨日と同様に、途中で休憩を挟みながら只管に土を掘り耕した。 明くる日も。そのまた翌日も。 冷たい雨に濡れそぼる日も、白い雪がちらつく日にも。 何かの衝動に突き動かされるかのように、もう十分に耕した筈の畑地を幾度となく掘り返す。 そうして今度は、金細工の柄が眩い短剣を地中から見付け出した。 ――嗚呼、何と忌まわしき……違う、はやく、ワタシを……。 嘆き続ける女は炎の中から、疲労困憊で熟睡するゲイリーへと語り掛ける。 その翌朝。いつものように顔を洗おうと頬に水を付けた瞬間、激しい痛みがゲイリーを襲った。 「痛ってえっ!」 思わず叫んで盥の水面を覗き込むと、火傷でも負ったかのように顔の皮膚が赤黒く爛れているではないか――。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加