時計屋と青スーツの男(SF編)

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「失礼。こちらに青いスーツと帽子の派手な男が来たろう?」 「ええ。この時計の修理を――何するの!」 答える途中で突然に懐中時計を奪われ、サラは大声を上げる。 「フッ。これさえ手に入れてしまえば――」 「俺に勝ち目は無いと?」 不意に背後から囁かれた声に、勝ち誇っていた男の顔が瞬時に青ざめた。 「まだ約束の時間じゃ……」 「この間抜けを見掛けたんでな」 サラの疑問に答えつつ、彼は黒スーツの腕を捻りあげ懐中時計を取り戻す。 「ちゃんと直ってるな。感謝する」 掴んでいた腕を離し背中を蹴りつけて相手を転倒させると、彼はコートの下から大振りの銃を取り出した。 物騒に過ぎる状況に硬直するサラだったが、大口径の銃身の上部に不自然な窪みと複数のボタンを見付ける。 腹這いで逃げようとした男へ革靴に仕込んだナイフを突き付けながら、彼は銃の窪みに懐中時計を嵌め込んだ。 「ま、待て!何処まで『戻す』気だ!?」 「『戻す』とは限らんだろう。いっそ人類が滅亡する遠未来まで『飛んで』みるか?」 「止めっ――!?」 男が叫び終わらぬ内に、彼は嘲笑を浮かべて銃身のボタンを操作すると、引き金に力を込める。 途端に懐中時計の針が勢い良く回転し始めたかと思うと、銃口から目の覚めるような青い光が迸った。 眩い青に射られた瞬間――男の姿が跡形も無く消えたのを目撃したサラは、混乱のあまり思考停止した頭を抱えてしまう。 「一体、何が……」 「あの間抜けを、この時空間転送銃で少しばかり過去に送ってやったのさ――戦時中の紛争地域に」 「そんな、有り得ない……」 彼は銃から時計を取り外すと、呆然とするサラへ手短に事情を説明した。 原理等は不明だが祖父が開発したという銃には、撃った対象を任意の過去や未来へタイムスリップさせる力がある事。 先程の男は何故かこの銃の存在を知り執拗に狙って来る闇組織の一員で、其処のトップは祖父と因縁があるらしい事も。 「祖父は俺に銃を託し姿を消した。こいつの謎を解く為に、俺は此処へ来たんだ。この懐中時計は君の曾祖父が造った物らしいんでな――サラ・ロムベルト」 明かされた事実に驚きながらも、部品の歯車が店に有った事に得心が行く。 同時に不可思議な銃と彼への興味が湧き出すのを、サラは抑えられなかった。 青スーツの男との奇妙な邂逅。此処からサラの人生は変わり始めたのだった――。 <了>
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