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今まさに階段を登ろうとしていた自分をじっと見つめてくる長谷川。
柳はじっとりと体中が汗ばむのを感じた。
「この2階には店は一軒しか無いはずだけど。あんた達、その店に用があるの?」
「は……はい。まあ、そんなとこです」
まさか今からこの上の店にショバ代ふんだくりに行くとも言えず、柳と赤木は苦笑いした。
もし今自分が準構成員として組関係の仕事をしていると知られたら、きっとただでは済まされないと柳は思った。
長谷川の腕や腰回りは少しも筋肉の衰えを感じさせない。
暴力は無いにしても、得意の大外刈りか背負い投げでたたき落とされるかもしれない。
”誤魔化さなければ!”
錆びた手すりを握る柳の手が更に汗ばむ。
「ちょっと、仕事の関係で。本当に、ちょっと……」
「じゃあ、一緒に行こうよ。ここの店の主人と仲いいんだ、私」
「え? ……マジっすか?」
柳の声が裏返った。
闇デートクラブなのに? いや、表向きだってアダルトレンタルビデオ店だ。いやいや、そもそもそんな事にこだわる人ではないのか? この人は……。
刹那、いろんな思考が脳内を駆け巡る。
「あの店に出入りしてるんですか? ボスは」
「ああ。なかなか良いでしょ。品数が豊富だしね。しばらく忙しくて来れなかったけど、また通おうと思ってるんだ」
「な……なるほど」
品数とはアダルトDVDの種類だろうか。それとも男の?
「店長は豪快だけど、いい奴なんだ」
「た……確かに豪快そうですね」
兄貴らにひるまず、ショバ代踏み倒してきた店長だ。だが、まさか長谷川と知り合いだとは!
「ほら、二人とも一緒に行こう。奢るよ」
「お……おごるって、そんな、俺らはいいですよ!」
奢るって何をだ! アダルトDVDか! 女か! 柳は慌てた。
第一、一緒に行って長谷川の懇意の主人から金を巻き上げられるはずもない。
その場で殺される。
「すいません、ボス。よく見たらここは目的の店じゃ無かったみたいで……俺ら、勘違いしてました。もう一つ向こうの筋でした。あの、だから、これで失礼します」
ジリジリと後ずさりする柳と赤木。うまく誤魔化せたか自信が無かった。
「え? そう? せっかくゆっくり話でもしようと思ったのに。……でも仕方ないね」
少し割り切れない表情をして長谷川は柳をじっと見つめた。
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