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「矢傷・・・」
その人の腕には何重にも巻かれた布、傷口が塞がってるわけでもないのに巻かれた布には滲んだ血痕。
躊躇いなくその布を取ると、何かが刺さって無理やりにでも抜いたような傷があった。
「この矢傷はいつ負ったものですか!?」
女の体で、一兵卒と言えど男を跳ね除けて無理に傷を診た私の質問に答えが返ってくるのは時間がかかった。
「答えないんですか? 死にますよ この方」
淡々と話すその声は人を委縮させる以上にもっと強い意味があった。
恐る恐ると近くにいた兵がつい今し方だと答える。
それだけ分かれば、この人を生かすも殺すも自分次第という状況に背筋が少し冷えた。
「矢の先に毒が塗ってあったのでしょう」
つい今し方に付いたと言うその矢傷は周りが変色し始めていた。
傷を負ってから経った時間は計り知れなかったが、唸り声をあげ倒れている男を見るにまだ、まだ自分が“神”になれる猶予があると感じた。
「私が!!私がその毒を吸い出します!」
「何を・・」
思いもしない衝動に体が揺らぐと、若い兵がたどたどしくそう言いながら座り込む私の前に這う様に出てきた。
その兵も必死だったのだろう。毒という言葉に反応してでたその咄嗟の行動は勇気あるものだったのかもしれない。
だけど、それは後に続く結末が潔く綺麗な時だけの話だ。
「放れなさい!!」
張り詰めた氷が一気に割れた、そんな音があたりに響いた。
一瞬の出来事だったが、痛む右手と驚く兵の顔を見て人の頬を叩いたことに気が付く。
傷口に口を付ける手前で肩を引っ張り、勢い任せに振り下ろした手がその頬を揺らしたのだ。
「毒を吸い出す!?馬鹿なことを!!」
「しかし・・っ」
「蛇の毒とは違う、口に入れば死に至る可能性があるんですよ!!」
人を救うために、人が死ぬ代償なんて何の意味もない。
可能性だけで語られたその言葉は信憑性には欠けたが、説得力は十分だった。
言葉にその兵が俯いたことを確認すると、私は先ほどまでに採っていた薬草をできる限りを見極め、
そっとその傷口に触れた。
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