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と言いたくなったが
ぐっとこらえた。
いいとしした女が
娘といってもおかしくはない女子高生に
そんなことを言ったら
ただのイタイ人である。
ヒステリーばばぁである。
それは直子もわかっていた。
それに、ねくらちゃんの直子。
気持ちを口には出せないのである。
ネチネチ、ねちねち思い続けるからこそ、
ねくらちゃん、なのだ。
「どうせ、どうせ、どうせ、どうせ、どうせ、どうせ、どうせ、どうせ、どうせ、どうせ、どうせ」
ギネス記録を塗り替えるくらいの勢いで、
「どうせ」と思い続ける直子の背中を誰かが
そっと叩いた。
「あんた、若いねぇ。きれいだねぇ」
直子の背中を叩いたのは、
杖をついた老婆だった。
「え?若い?きれい?私が?!」
そう言っている直子の顔はにやついている。
老婆は大きくうなずき微笑んでいる。
「若い、きれい」
頬に手をあてにやつく直子に
老婆は言った。
「私と比べたら圧倒的に若いんだから、
席譲ってよね」
直子は電車に乗り込むと同時に、
空いている席に座ったのだ。
老婆に杖で足をつつかれ、
直子は立ち上がった。
すかさず老婆は空いた席に座る。
今度は老婆がにやついている。
「どうせ、どうせ、こうなるんだよねぇ」
直子は思ったが、まだにやついていた。
「若い、きれい」
そう言われたのはいつ以来だろう?
だからうれしかったのだ。
ねくらちゃんな直子だが、
単純にうれしがる、素直な部分ももっている。
素直な子でいてほしい。
それが、直子の名前の由来。
ねくらちゃんではあるが、
素直にアラフォー時代を生きている直子である。
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