過去 藍墨色の夜 Ⅱ (花音目線)

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留学の準備は滞りなく進んだ。 やっぱり、母親が先回りして準備してたんじゃないかとは思ったけど、有り難くスルーだ。 学校は相変わらずだけど、目標を持った私は無敵だ。将来、関わるご縁もあるかもしれないけどその時はその時だ。 この高校での生活も僅かになった頃、飯塚さんが話しかけて来た。 「後藤さん。留学するんだってね。 一緒に卒業出来ないなんて、寂しいね。」 もう、この高校には戻らないつもりだ。 この前、ポロっと先生が私の留学の事を漏らしたので、みんな興味深深だ。 「そうだね。 でも、目標が出来たから。」 すっぱり言い切った。 「そっか……。 色々、ゴメンね。」 「そんな、謝られる事はないよ?」 ちょっと言い方がキツかったかな? 「うん。でも。謝らせて? 本当に私の誤解っていうか、要らぬ嫉妬みたいなもので。 一時期、顔も合わせるのも辛くて、話もしたくなかった。」 周りが聞き耳立ててる事は分かった。 「うん。 私も何も知らなくてごめんなさい。 なんの力にもなれなかった。」 多田さんが謀って、新田がああなったのには責任を感じる。 「そんな、私は後藤さんも陥れられたと思ってる。 ……悔しくないの?」 本当は薄々飯塚さんも気付いているんだろうと思う。最初に多田の事を気をつけろと言ったのは彼女だったから。 遠くに多田さんもいる。 地獄耳で私達の会話を聞いてるんだろう。 「人がなんと言おうと、如月は政に一切口出ししないってね、家の家訓があるの。 如月ってね、母方の家なんだけど、ちょっとした権力を持っていてね。その発言は強力らしい。 私もその血縁者なんだ。 だから、何も言わない事にしているの。 ちょっとした事で、どこかの会社の人事が軽く動く事もあるからね。」 最後は語尾を強めて言ってみた。 如月。 その名前で、ググってビビったりして。 如月発言の都市伝説もネットの片隅では健在だから。 これくらいの仕返しなんてかわいいものでしょ? そう? なんて、怪訝な顔で納得してた飯塚さんにフフッと笑いながら、項垂れている多田さんを視線の端に捉えていた。 「でも、ありがとう。飯塚さん。 無視されたのはちょっと応えたけど、当然だと思う。でも、私に対しての陰口なんて一言も言ってなかったよね。 それに、救われた。 飯塚さんは裏のない良い人だと思う。」
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