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留学の準備は滞りなく進んだ。
やっぱり、母親が先回りして準備してたんじゃないかとは思ったけど、有り難くスルーだ。
学校は相変わらずだけど、目標を持った私は無敵だ。将来、関わるご縁もあるかもしれないけどその時はその時だ。
この高校での生活も僅かになった頃、飯塚さんが話しかけて来た。
「後藤さん。留学するんだってね。
一緒に卒業出来ないなんて、寂しいね。」
もう、この高校には戻らないつもりだ。
この前、ポロっと先生が私の留学の事を漏らしたので、みんな興味深深だ。
「そうだね。
でも、目標が出来たから。」
すっぱり言い切った。
「そっか……。
色々、ゴメンね。」
「そんな、謝られる事はないよ?」
ちょっと言い方がキツかったかな?
「うん。でも。謝らせて?
本当に私の誤解っていうか、要らぬ嫉妬みたいなもので。
一時期、顔も合わせるのも辛くて、話もしたくなかった。」
周りが聞き耳立ててる事は分かった。
「うん。
私も何も知らなくてごめんなさい。
なんの力にもなれなかった。」
多田さんが謀って、新田がああなったのには責任を感じる。
「そんな、私は後藤さんも陥れられたと思ってる。
……悔しくないの?」
本当は薄々飯塚さんも気付いているんだろうと思う。最初に多田の事を気をつけろと言ったのは彼女だったから。
遠くに多田さんもいる。
地獄耳で私達の会話を聞いてるんだろう。
「人がなんと言おうと、如月は政に一切口出ししないってね、家の家訓があるの。
如月ってね、母方の家なんだけど、ちょっとした権力を持っていてね。その発言は強力らしい。
私もその血縁者なんだ。
だから、何も言わない事にしているの。
ちょっとした事で、どこかの会社の人事が軽く動く事もあるからね。」
最後は語尾を強めて言ってみた。
如月。
その名前で、ググってビビったりして。
如月発言の都市伝説もネットの片隅では健在だから。
これくらいの仕返しなんてかわいいものでしょ?
そう?
なんて、怪訝な顔で納得してた飯塚さんにフフッと笑いながら、項垂れている多田さんを視線の端に捉えていた。
「でも、ありがとう。飯塚さん。
無視されたのはちょっと応えたけど、当然だと思う。でも、私に対しての陰口なんて一言も言ってなかったよね。
それに、救われた。
飯塚さんは裏のない良い人だと思う。」
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