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「もう帰ろうかしら」
ひとりつぶやき、カバンに手を伸ばそうとしたときだった。
「やい。やいやいやい!」
乱暴な声をあげながら、一人の男子生徒が目を血走らせて近づいてきた。見覚えのある顔は、同じクラスの下下下卑太(げげ げびた)のものだった。
「なんの用かしら? エロ本の虫さん」
不適な笑みを浮かべ、今日子はワザとらしく尋ねる。
「よくもチクってくれたな」
下卑太は、今日子のテーブルに椅子を引っ張ってくると、そこにふて腐れた態度で腰をおろした。
「おかげで一時間近くも説教された挙げ句、本は没収だ。鎧出(よろいで)のやつ許さねー。教師の特権で俺のコレクションを奪いやがって。今ごろ楽しんでるに違いないぜ」
「エロ本をこれみよがしに読むからよ。授業中、しかもわたしのとなりで」
「おまえもエロ本読んでたくせに」
「あれはポルノ文学。一緒にしないで」
「似たようなもんだろ。写真か文字かの違いだけで」
「あんな便宜主義の固まりとポルノ文学が同類? 聞き捨てならないわね」
今日子の眉がぴくりと動く。先ほどの文庫本を再び開き、サッとページをめくった。
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