消えて見つけたもの

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暫く街中を歩いた。 何故か店先を覗いては次の店へ。 揚げ物屋さんで足を止めると、1つだけコロッケを買ったらしい。 歩きながら食べて帰るのかと思ったら大事そうに抱えて歩き始める。 そのうち古いアパートへ着いた。 扉を開いた先はガランとしていた。 小さな机にメモが置いてあったけれど、奴は横目で通りすぎる。 なになに… 【適当に食べておいて】 なにこれ? 振り返ると、冷蔵庫を開けて確認しているみたいだった。 見えた中身は調味料ぐらいしか無かった。 部屋を見渡す。 普通は食べ物を買うお金とか置いてくものだよな。 なぁ、そうであってほしい… 仕返しするつもりが、いつしか奴の横顔を見ながら切ない気持ちで願っていた。 頼むよ。 救いはあるんだろ? いつものことなのか、静かに冷蔵庫を閉めて机の前に座る。 飲み物も、ご飯もない。 買ったコロッケをゆっくり噛み締めるように食べ始めた。 そして最初は無表情のまま1粒こぼれた涙。 だんだん顔は崩れて涙も止められなくなったのか。 ぐしゃぐしゃの顔でコロッケを食べる姿を見たら、思わず部屋を飛び出していた。 便利だよな。 壁とか抜けちゃうんだから。 されたことは許せないけど仕返しする気持ちは砕かれ消えていた。 存在感のない僕にすら母はご飯と風呂を用意してくれる。 声をかけるでもなく自然としてくれていたのだ。 それがどんなに大事なことだったのか。 今見てきた光景に気づかされる。 「あいつ…大丈夫かな」 アパートを見つめて唇を噛み締める。 もし、もしも僕が戻れた時には… そしてまた学校へ向かった。
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