烏と木の実

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烏と木の実

 運転中、道路に何か落ちているのが見えた。  色や大きさからして何かの木の実だ。そんなに大きな物じゃないけれど、轢いたらタイヤに影響が出るかもしれない。  避けるつもりで少しだけハンドルを切ろうとしたら、歩道に一羽の烏が見えた。  なるほど。木の実はあいつの仕業か。車に轢かせて殻を割り、中身を取り出すつもりなんだろう。  烏の手助けをしてやる義理はまったくないが、なんとなく、居合わせたのも縁だと思い、俺は木の実を轢いてやった。  たいした衝撃もない。多分タイヤは大丈夫だろう。でも固い殻は割れたらしく、バックミラーに、車道に出てくる烏が映ったのが見えた。  その日から、この道を通ると、何度か落ちている木の実を見かけるようになった。そして歩道には烏の姿。  どうやら俺の車を覚えて、通りかかると木の実を引かせようとしているらしい。ま、いいけど。  そんなことが何度か続いたある日。  道に木の実を見つけたので、いつものように轢いてやろうとした車の前に、いつもは歩道にいる烏がいきなり飛び出してきた。  慌てて急ブレーキをかけると、ぶつかる寸前で車は止まった。  おいおい。何なんだ。俺はいつもお前の役に立ってやってる筈だろ? なのにどうしてこんな真似をするんだよ。  そんな不満を募らせながら、烏を睨みつけた時だった。  前方でした物凄い音に、俺は視線をそっちに向けた。  反対車線を走っていたらしきトラックが、中央ラインを越えてこっちの道に乗り出してきている。見たところ、パンクによる急停車のようだけれど、車通りがなかったのが幸いしてか、ただ逆の車線に突っ込んだだけで、車体も運転手も無事のようだ。  よかったなと、安堵を湧かせた瞬間、気がついた。  もし車を停めていなかったら、俺は、あのトラックの事故に巻き込まれていたのではないだろうか。
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