4人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
烏と木の実
運転中、道路に何か落ちているのが見えた。
色や大きさからして何かの木の実だ。そんなに大きな物じゃないけれど、轢いたらタイヤに影響が出るかもしれない。
避けるつもりで少しだけハンドルを切ろうとしたら、歩道に一羽の烏が見えた。
なるほど。木の実はあいつの仕業か。車に轢かせて殻を割り、中身を取り出すつもりなんだろう。
烏の手助けをしてやる義理はまったくないが、なんとなく、居合わせたのも縁だと思い、俺は木の実を轢いてやった。
たいした衝撃もない。多分タイヤは大丈夫だろう。でも固い殻は割れたらしく、バックミラーに、車道に出てくる烏が映ったのが見えた。
その日から、この道を通ると、何度か落ちている木の実を見かけるようになった。そして歩道には烏の姿。
どうやら俺の車を覚えて、通りかかると木の実を引かせようとしているらしい。ま、いいけど。
そんなことが何度か続いたある日。
道に木の実を見つけたので、いつものように轢いてやろうとした車の前に、いつもは歩道にいる烏がいきなり飛び出してきた。
慌てて急ブレーキをかけると、ぶつかる寸前で車は止まった。
おいおい。何なんだ。俺はいつもお前の役に立ってやってる筈だろ? なのにどうしてこんな真似をするんだよ。
そんな不満を募らせながら、烏を睨みつけた時だった。
前方でした物凄い音に、俺は視線をそっちに向けた。
反対車線を走っていたらしきトラックが、中央ラインを越えてこっちの道に乗り出してきている。見たところ、パンクによる急停車のようだけれど、車通りがなかったのが幸いしてか、ただ逆の車線に突っ込んだだけで、車体も運転手も無事のようだ。
よかったなと、安堵を湧かせた瞬間、気がついた。
もし車を停めていなかったら、俺は、あのトラックの事故に巻き込まれていたのではないだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!