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「眼鏡。俺とお揃いでもなくて目も悪くないなら、なんでいきなり眼鏡なんてかけたんだ?」
「涼太……俺が眼鏡かけてるのイヤか?」
「――イヤじゃないけど」
それはそれで似合っているし。
俺がそう言うと、哲は真っ赤になった顔はそのままで、俺からちょっとだけ体を離した。
「だって俺……これまで好きなのは自分だけだと思ってて。なのに涼太があんなこと言うから。友達でいられたらそれでよかったのに、いきなり涼太が俺の……か、彼氏とか」
そんなの恥ずかしくて、まともに涼太のこと見れないよ。だから、眼鏡かけた。
そう続けた哲は俺が今まで見てきた中で最高に可愛くて、愛しくて、俺は哲の側へ詰め寄ると、両腕を掴んで顔を寄せた。
「え、ちょ……涼太っ?」
「哲。キス、していい?」
哲が目を瞠る。
そういえば、部屋の暖房を入れていなかったなと、ふと思ったが、そんなの気にならないくらいに俺も哲も体が熱くなっている。
「哲?」
俺が呼ぶと、哲はおずおずと頷くように顎を引いた。
哲の手前、余裕のあるふりをしているが、他のやつらが女の子を意識し始めた頃から俺には哲しか見えていなくて。だからもちろんキスも初めてだ。
俺は緊張で手が震えてしまうのを気取られないよう気をつけながら、目を閉じている哲に顔を近づけた。
キスまであと少し。鼻先が触れそうな距離まで近づいたところで、俺と哲の眼鏡がぶつかった。
思わず「あ」と同時に声が出る。
「哲、眼鏡外して」
「え……涼太が外してよ」
「イヤだ。哲と違って、俺はほんとに目が悪いから。眼鏡がないと哲の顔がよく見えない」
「――――見なくていいよ。恥ずかしいし」
哲がふいと顔を横に向ける。俺は横から覗き込むように首を傾げ「それなら一緒に外そうよ」と哲に言った。
「ん。それなら、いい」
哲のこめかみに触れ、そっと眼鏡を外す。哲も俺にならって同じように俺の顔から眼鏡を外した。
「哲」
初めて触れた哲の唇は想像していた以上にとても柔らかくて、俺は顔の向きを変えながら何度も哲の唇に自分のそれを押しあてた。
可愛くて大好きな哲。
俺の目が悪いのは本当だけど、実はキスするくらいに近づいたら哲の恥ずかしそうな顔がよく見える。なんてことは内緒にしておこうと思う。
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