スクールライフ

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 例えば、五年前の自分をはっきりイメージできるだろうか。どんなことを考え、どんなふうに笑い、どんな心境だったのか。  私はうまく思い出せない。いや、思い出したくないのかもしれない。なのに――。  そっと布を掛け角に追いやり忘れていた過去の私に、今頃心動かされてしまうなんて、この時は想像もしていなかった。  改札を出て右に曲がると、どうやっても視界に入るモニュメントがある。この町出身の芸術家が作ったのだろうか。それはとにかく巨大な物体で、丸でも四角でも三角でもない妙な形をしている。これほどの建造物ともなれば、さぞかし芸術性の高い作品に違いない。それでも私にはさっぱり超大きな石ころにしか見えなかったが、待ち合わせにはちょうど良く、私はいつもその前で本を開いたり携帯をいじったりしていた。  携帯に表示された時刻を見て視線を上げる。やがて、せわしなく過ぎていく大人たちの奥の方で大げさに手を振る人影が見えた。私も振り返す。少し早足になって近寄ってくる二人は、今学期から一緒に登校しているクラスメイトだ。  学校方面にゆっくり歩きながら、長い黒髪を風になびかせ六車麻里が私に聞いた。 「ユズさ、何時に駅着いてるの?」  いつも私が待っているから気になったようである。 「少し前だよ。二十分くらい前かな」  そう答え終わる前に、 「えっ!? 電車一つ遅らせたらいいのにぃ。ユズ、家も遠いんだし」  と、麻里と私の後ろをちょこちょことついてくる瑠璃垣愛夏が驚いて言った。  確かに一本電車を遅らせたとしても集合時間に間に合うことは間に合う。 「でも二十分なんてすぐ過ぎるし、全然平気だよ」  麻里と愛夏は中学からの同級生で、すぐ隣の駅から一緒に登校していた。同級生のいない高校に進学を希望した私は、少し遠方からこの高校に通っている。出席番号が近かった二人はクラスに誰も顔見知りがいない私に声をかけてくれ、今では休み時間や移動教室は大抵三人で行動している。  高校に入学し、今月でようやく半年だ。麻里はいつもサバサバしていてとても頼りになり、愛夏はおっとりした性格で、よく笑う。体形も麻里はスラッと長身なのに対し、愛夏は小動物のように小柄だ。二人のタイプは全く違っていて、そのせいかとても相性がいい。私は高校生活に大した期待を抱いていなかったが、二人と同じクラスになれてつくづく幸せだと感じている。
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