春待つ、その日。

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えっ、あっ、もしかして、 好きな人ができたから 別れて欲しいってことですか? 先生、待ってるって云ってくれたのに……。 「なに泣きそうな顔してるんだ。 ここに住むのは俺と和音(かずね)」 「え?」 戸惑ってたら先生はポッケからなにか出し、 私の左手をとって薬指にそれを嵌めた。 目の高さまで手を持ってくるとそれは、 指環、だった。 「ずっと待ってた。 やっと和音と一緒にいられる。 ここで俺と一緒に暮らそう?」 泣きそうになって ただ黙ってこくこくと頷いた。 先生にぎゅっと抱きしめられると、 たまらなくなって涙が零れた。 「好きだよ、和音。 これからもずっと」 「……私も先生が好き、です」 見上げると、レンズの奥の瞳が細くなる。 ブラウンデミのブローフレームの 眼鏡に変わって印象は変わった先生だけど、 レンズ越しに見る目は変わらない。
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