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僕はこの町に戻ってきた。
引っ越していったのが小学五年生の時だから、十二年ぶりということになる。
親の仕事の都合で、引っ越しが多かった僕だけれど、この町には思い出があった。住んだことのある他の町とは違い、懐かしさを感じた。
大きいと感じていた神社は思ったよりも小さくて、少しがっかりしたし、丘に見える銀杏の木は、昔と変わらずほっとした。
思い出……僕はこの町で初恋をしたんだ。当時、隣の家に住んでいた雪という同級生の女の子だ。思い出すと甘酸っぱさがこみあげてくる。僕は彼女はどうしているのか気になって、期待半分、怖さ半分で訪ねてみることにした。
この道は僕らの通学路だった。よく二人で通った道だ。
変わっていない風景だ。もちろん、大きな犬がいた家には、もう犬がいなかったり、小さな空地は舗装された駐車場になったりしていて、時が過ぎたことを感じるけれども、雰囲気は変わっていない。
そこに目指した家はなかった。いや、家はある。だけれども僕の知っている家じゃない。新しい綺麗な家だ。
「そりゃ、そうだよな。十二年も経っているんだから」
僕は寂しくなった。どんな人が住んでいるのかとさりげなく家の前を通ってみる。
「あ、あれ? 苗字は一緒?」
表札に書かれた苗字は「雪ちゃん」の苗字だ。
その時だ。「がちゃっ」と玄関が開いて、女性が顔を出した。
「家に何か御用ですか?」
いきなり尋ねられた。不審者とでも思われたのかもしれない。
「あ、あの、違うんです。僕は昔、隣に住んでいて……」
僕の言い訳を遮るように女性が声を上げた。
「あれ!? 聡くん? 聡くんじゃない!? 私、雪だよ!」
その綺麗な女性は「雪ちゃん」だった。
「うわっ!懐かしい! 聡くん、変わってないね」
いきなり手を取られて僕は赤面した。雪ちゃんは変わっていた。想像したよりもずっと綺麗になっていた。
僕は家に招き入れられた。雪ちゃんのお母さんは年を取っていたけれど、綺麗な小母さんのままだ。僕らは昔話で盛り上がった。時が経つのも忘れ、気が付けば夕食をご馳走になっていた。
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