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「誰にもばれずに校内に単身侵入。犯行グループをたいした怪我もさせずに制圧して、ついでに爆弾を見つけて処理も出来る男は、お前しか思いつかなかったんだよ」
高広の言葉に、
「かいかぶられたものだ」
龍一は返事をするが、内心、
「それも当然か」
と諦めている。
今、高広が言ったことを100%体現できる人間など、龍一自身をおいて他にいない。
高広が告げる要求は、ひどく厄介なことだが、
「そういう条件は、俺がこの件を承知する前に、ぜひ述べてほしいものだ」
龍一はひとこと文句を言っただけで、ソファーを立ち上がる。
「イワシは落ちるのか?」
そして、それだけはひどく不快だと言いたげに重ねて尋ねれば、
「ああ、あと1時間後だな。巻き上がったところまでは確認した」
高広はパソコンを操りながら言う。
「新しいスーツがとりあえずの報酬だ。その世にも珍しい現象と同時に乗り込むことにする」
龍一が告げれば、高広はちょっと目を見開いて、
「いい格好しいのお前さんが、えらく不格好な作戦を選択するじゃないか」
たったひとことで龍一の考えをすべて読んだように驚いてみせた。
龍一は、高広のわざとらしい仕草こそが不快だと眉をしかめ、
「俺に魚が降る情報を教えた時点で、全部お前の戦略だろうが」
高広はその言葉に、降参と両手をあげる。
「準備は整ってる。このビルに向かってくれ」
校舎のホログラフの隣に地図を浮かび上がらせる。
「抜け目のないやつだ」
龍一は呆れたように言って、二度と高広を振り返ることはなく歩いていく。
背中を向けたままで、
「まあ今回は大サービスだ。この借りはでかいぞ」
捨て台詞を吐いて秋場家から出かけて行った。
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