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「おい、来るぞ。言っておくが魚が降るのは短い時間だ。それがすめば、お前さんの姿は奴らからもテレビカメラからも丸見えになる」
「無駄口はいい。カウントダウンできるか?」
雨の代わりに降ってくる自然現象を、正確に計測してみせろと、龍一は高広に無茶を言う。
しかし耳につけたイヤホンからは頼もしい声が聞こえてきた。
「レーダーの魚影は常時追跡中だ。ドローンからの映像も、見えた。行くぞ、カウントダウン。7、6、5、4……」
中途半端な数字から始まった高広のカウントダウンだが、まもなく龍一の目にもその異様な物体は視認できる。
雨と同じく上空から、嘘のように撒き散らされる大量の魚。
「おっしゃ、今だ」
高広の合図と共に、龍一は迷うことなくスピアガンを発射した。
先端の三股のモリは、強風の中を飛んで、魚が地面に達するほんの少し前に、学校の屋上の手すりにカランと巻き付く。
その異音はすぐさま襲いかかる魚たちの、地表に激突する音に紛れた。
「なんだコレ、なんだ?」
戸外にいたものは突然に降られた氷の礫『ヒョウ』だと勘違いして、それぞれに自分の頭を庇い逃げ回る。
空から降ってくるイワシは小ぶりなものだが、それでも自由落下に助けられたスピードは、ある意味凶器だ。
証拠にイワシたちは次々に地面で潰れて内蔵をぶちまける。
「なんだコレ。わっぷ臭ぇ」
誰ともなくあがる悲鳴の中、人々は頭を抱えて物陰に避難しようと右往左往した。
その衆人観衆がイワシに襲われ下を向く僅かな隙に、龍一は200メールのロープを高速で滑り降りた。
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