2 立てこもり犯

2/9
前へ
/114ページ
次へ
「おい、来るぞ。言っておくが魚が降るのは短い時間だ。それがすめば、お前さんの姿は奴らからもテレビカメラからも丸見えになる」 「無駄口はいい。カウントダウンできるか?」 雨の代わりに降ってくる自然現象を、正確に計測してみせろと、龍一は高広に無茶を言う。 しかし耳につけたイヤホンからは頼もしい声が聞こえてきた。 「レーダーの魚影は常時追跡中だ。ドローンからの映像も、見えた。行くぞ、カウントダウン。7、6、5、4……」 中途半端な数字から始まった高広のカウントダウンだが、まもなく龍一の目にもその異様な物体は視認できる。 雨と同じく上空から、嘘のように撒き散らされる大量の魚。 「おっしゃ、今だ」 高広の合図と共に、龍一は迷うことなくスピアガンを発射した。 先端の三股のモリは、強風の中を飛んで、魚が地面に達するほんの少し前に、学校の屋上の手すりにカランと巻き付く。 その異音はすぐさま襲いかかる魚たちの、地表に激突する音に紛れた。 「なんだコレ、なんだ?」 戸外にいたものは突然に降られた氷の礫『ヒョウ』だと勘違いして、それぞれに自分の頭を庇い逃げ回る。 空から降ってくるイワシは小ぶりなものだが、それでも自由落下に助けられたスピードは、ある意味凶器だ。 証拠にイワシたちは次々に地面で潰れて内蔵をぶちまける。 「なんだコレ。わっぷ臭ぇ」 誰ともなくあがる悲鳴の中、人々は頭を抱えて物陰に避難しようと右往左往した。 その衆人観衆がイワシに襲われ下を向く僅かな隙に、龍一は200メールのロープを高速で滑り降りた。
/114ページ

最初のコメントを投稿しよう!

112人が本棚に入れています
本棚に追加