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「お前が呑気なのは結構だが、俺は暇ではないんだ」
もともと有坂龍一がこのミッションに参加しているのは、政府からの依頼があったわけではない。
あくまでもボランティア。
どこからも報酬は出ないし、評価もされない。
そして、龍一がすでに校舎内の潜入していることも、高広以外の誰も知らない。
だから、
「俺がここにいることがバレたら、すぐに爆弾が作動されるだろうし。それにまたぞろ、復帰の話が持ち上がりかねない」
龍一にとっては後者の方が懸案事項である。
龍一自身は、政府の秘密工作員という立場をきっぱり引退したつもりなのだが、現在、龍一が提出したはずの『退職届』は行方不明中だ。
危険な仕事はお断りだと断言したはずなのに、言った当の本人が、乞われてもいないのに、自主的に現場の第一線に赴いているだなんてことがバレたら、
――後からどんな言い訳が通用する?
さっさと目的を果たして、この場から姿を消したいというのが龍一の本音である。
しかし、爆弾の在り処を探っている高広の返事は芳しくない。
だったら、スプリンクラーを操作し、教室内がパニックになっている間に、すみやかに犯行グループを制圧。
幸いスプリンクラーに直結しているセンサーは、煙だけでなく熱にも反応するようになっているから、センサーに僅かな熱を近づけるだけならば、窓の外の真犯人からは、何が起こっているかなんて見通せないだろう。
龍一ならライターを投げるだけで、可能な技だ。
スプリンクラーが作動し、犯人グループが動揺している隙に一気に教室を叩く。
誰が生徒で誰が犯人なのかだけは、決行前に確認しておく必要があるが、まあこの際、少しぐらい間違えたって許してもらえるだろう。
誰も死ぬ予定はないし。
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