プロローグ

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龍一はさっさと靴を脱ぐたたきに舞い戻り、さっき履いたばかりの靴からもう一度足を浮かす。 高広は満足そうに、あらわになった龍一の気障ったらしいシルクの靴下をみやりながら、 「all right. 太平洋沖で大型竜巻の発生情報がある。風向きからこの上空に達するのは約2時間後。降ってくるのはまあイワシだな。身体中生臭くなりてーんなら、引き止めやしないんだが」 バカバカしい話だが、年中胡散臭いことしか口にしないこの男、秋場高広が有坂龍一に告げたとなると、それはどんなにアホらしい内容でも100%の事実だ。 有坂龍一に、気軽な嘘や冗談は許されない。 龍一は、その名を口に乗せるだけでも命の危険が及ぶ物騒な男なので、冗談ひとつ言うのも命がけなのだ。 比喩ではなく、真面目に殺される。 だから、 「イワシなら弾丸より遅い。避けてみせよう」 真顔で言い返してくるのも、別に高広の冗談に冗談で返したわけではないのだろう。 傍から聞いている分には、超絶イケメンふたりが、ヘタくそすぎるジョークの応酬を交わしているだけとしか見えないとしても。
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