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呑気すぎる平和思想に、それでも龍一は、
「教え子が犯人かもしれないという理由だけではないだろう。相手側の要求が理由か?」
尋ねた。
一度、学校内の制圧を承知した以上、龍一には聞く必要のない情報ではあるが、高広が予報した『魚が降る』時間までは、まだ少しある。
イワシに降られて、生臭くなる気は毛頭ないから、無駄話も一興だろう。
高広は、
「拘留されている爆弾魔、セルゲイ・ラバスの釈放だなんて、一介の高校生が言い出すわきゃないだろう」
高広の言うことはもっともだ。
学校を占拠している犯人が要求してきたのは、現在、日本で活動するテロリストのひとり、爆弾作りで拘留されている外国人、セルゲイ・ラバスの釈放だった。
公安組織では有名な名前とはいえ、テロなどというそんな物騒な事件は、ここ日本ではけして表沙汰になることはないから、セルゲイの名前など、普通の高校生の口から出るわけがない。
だからこそ、犯人グループが高校生である可能性など、警察が聞き入れるわけがなかった。
しかし今現在、立てこもり犯はひとクラスまるごとを人質に取り、事件は進展することもなく、警察機関はただ学校の周りを囲んで硬直状態に陥っている。
テレビカメラなどの取材陣も、この大事件をリアルタイムに仰々しく騒ぎたて、緊張状態にある犯人たちにどんな刺激を与えているかもわからない。
仮に犯人グループが高広の読み通り、まだ高校生のグループだとしたら、追い詰められた未成年が、果たしてどういう心境に陥るかも不安の種だ。
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