113人が本棚に入れています
本棚に追加
8 罠
当然のように料金所のバーを破壊して、高広が運転するトラックは逃走する。
しかし、いつパトカーのサイレン音が、すぐ背後に迫ってくるのではないかと考えると、セルゲイはとても落ち着かない。
「大丈夫なのか?」
セルゲイが膝を揺らしながら尋ねれば、
「ま、大丈夫でしょう。追ってくる奴がいれば、龍一が足止めしてくれる」
龍一とは、ヘリから狙撃してきた男の名前だ。
さっき輸送車もろとも、高広たちを吹っ飛ばそうとした。
「団体さんの先頭にいた護送車のワゴンを、俺たちの側へ近づけさせないでいてくれたのも、あいつ。無愛想なツラしてっけど、あれでなかなか仕事は出来る男なのよ。今ごろパトカーちゃんも、空のヘリを追っかけてるでしょ」
『パトカーを引き付けてる?』
セルゲイは首を傾げるが、
「あいつはロケットランチャー持ちだからな。追うなら、俺よりあっちが先」
高広はニシシと笑う。
『なるほど……』
確かに、あんな物騒な火器を所持しているとなれば、放置しておけるはずもない。
高広はタバコを取り出し、まず自分の口に咥えた。
そしてセルゲイにも差し出してくれながら、
「あんたも今のうちに吸っといた方がいーぜ。龍一の前で吸うと、撃ち殺される」
えらく物騒なことを言う。
でも、きっと真実だ。
出会ってからこの男、ずっと、冗談みたいな本当のことだけを口にする。
セルゲイはまだ震える指先で、高広が差し出すタバコの一本を抜き取る。
最初のコメントを投稿しよう!