君を想うが故に……

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―――――――― ――――   あれから何十年。  何百年。    いいえ、どれだけの時間が経ったかなんて分かるはずもなければ、分かりたくもない。    私はずっと真っ暗な世界で保管され続けていた。  お陰で、この世界に何が起きたのかは一切分からない。  ただ、ある日突然、光の下へと引きずり出された。  その事だけは覚えている。  あれから、私はとても大切に保護され、世界中から注目を浴びる存在となった。  それの何が不満なのかって?  不満だらけに決まっているじゃない。  生きたまま冷凍保存された私は、死んですらいないのよ。  それが何を意味しているのか、あなたには分かりますか?  動くこともできない。  話すこともできない。  それでも、私は生きているのです。  そう――――魂だけは。  死ぬことも適わず。 『人間』として生活することも適わない私は、見世物として、永遠にあの透明な箱に囚われ続ける。  はるか昔。  愛する人が言った。 「君が健康になって蘇るのを。ずっと待ってるから」 「僕が愛しているのは君だけだから。どんなに年老いたって、待っている」  優しい彼の顏ですら、今はもう思い出せない。  ただ。  私も。  今はただひたすらに、ずっと待っている。  誰かが優しく、私を殺してくれるのを。 「ずっと、待ってるから――」  だから。  お願いだから。  早く。  早く、私を殺してください。  冷凍保存された彼女の目に、薄らと浮かんだ涙を発見した博物館側は、すぐにガラスケースの温度を調節した。 「ふぅ。危ない危ない。一度解凍してしまえば、『生きたまま冷凍保存』された標本ではなく。単なる『冷凍保存された遺体』にしかならないからね」  彼女の魂の叫びが流した涙は、一瞬にして凍り付いた。
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