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こんなところに放り込まれても自分は死なないんだなと再確認する。一年なんて生易しい期間じゃないのは確かだが、頭がおかしくなったような自覚もない。
自覚がないだけでおかしくなっているのかもしれないが、それでも正気は保っている。
その男は髭も、髪も伸び放題で、服も汚れが目立つ。
そんな見た目もここでは気にならない。どうせ誰も自分を見ることなどできないからだ。暗闇の中に溶け込むように泥まみれの床に転がり込んだ。
また、数秒か、数分か、数時間か、時間間隔など分からないがいくらかの時間寝転がっていると、どこからかコツコツと足音が鼓膜を緩やかに揺らした。
地下であるからか、足音はよく響く。飯の時間かと思ったが、複数人の足音がするから違うだろう。ならまた新しい囚人かと楽観的に考えた。
叫び声は聞こえないが小さく会話ともとれる声が聞こえてくる。
囚人にしては静かだ。無口なやつなのか。しかし、久しぶりの暇つぶしになるだろうし、俺は耳を澄ました。
「クロウ・リュートはこんな地獄のようなところで15年も収監されていたのか。流石の大罪人でも気が狂っているだろう」
若そうな、しかしハキハキとした口調の男の声だ。
クロウ・リュート。これは囚人である男の名前だが、クロウ自身、自分の名前はそんなのだったなとふっと思い出す。
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