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大事そうに私を抱え込み、穏やかな寝息を立てる蓮からそっと身体を離し、剥き出しの肩にライトグレイのコートをかけた。
二人で暮らした部屋に鍵をかけ、コートなしではまだ肌寒い夕暮れの道を歩き出す。
出て行く方より、置き去りにされる方がきっと、つらい。
寝たふりが下手なあなたのことが、誰よりも好きだったの。
「……ありがとう、蓮」
別れの言葉は、言わない。
あなたと過ごした日々が、少しずつ私を強くした。
あなたが愛してくれたから、私は一人でも歩いていけるの。
桜舞う公園通りを、ヒールの音を鳴らして、風を切る早さで
私は、走り抜けた。
fin
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