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あの人の前で笑おうと思っても、顔が引き攣ったような笑みしか浮かべられない。
そんな私を嘲笑うように、悪戯なヨウカンが転げながら「みゃう」と鳴いた。
「雪さん、知ってる? あの公園にあったハナミズキだけど、昔にキリストが磔にされた十字架の木材として使われていたんだって」
十字架にですか!?
「キリストが処刑されたことを悲しんだハナミズキが、もう十字架に使われるのを嫌になって、それでまっすぐ伸びない木になったという伝説があるんだ」
私もそうだ。まっすぐに生きられない。
自分の境遇に嘆き、暗い性格に恥じ、冴えない容貌にため息をついた。
「そのキリストをいつまでも忘れないようにと、ハナミズキは十字架のカタチに花を咲かせるそうだよ」
そんなことを言いながら、テーブルの端を──とんとんとん──と指で叩く。そうやって奏でるリズムが好きだった。
その柔らかなリズムを聴いていると、心の鼓動が緩やかになる。
あの人の膝で眠るヨウカンも、その心地良いリズムが気に入っていた。
私とヨウカンが眼を閉じ聴き入っていると、あの人は決まってリズムを少しだけ変える。
それで私とヨウカンがバチッと眼を開けるのを、悪戯な微笑みを浮かべて眺めていた。
仔猫のヨウカンよりも悪戯な人だ。
「雪さん、外は寒いね」
冬ですから。
「ここにいると温かいんだ」
外は雪が降っていますからね。
「でも、雪は好きだよ」
奇遇ですね、私も好きです。
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