恋しさのカタチ──奇跡の街にネコが降る・番外編

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「それだから卯月が勘違いするのよ」  勘違い……どういう意味ですか? 「卯月はあなたを憐れんでいたという意味よ!」  その声に驚いたヨウカンが、「なぁう」と鳴きながらテーブルの上で跳ねた。  毛糸バッグに爪を立て、サボテンの鉢植えを倒しながら、尻尾を太くして逃げる。  私は慌てて毛糸バッグを拾おうとして、テーブルに落ちた一葉の写真に眼を留めた。  ──とんとんとん──と、あの人がリズムを奏ではじめる。  その規則正しい律動に従って、写真の上にばらまかれた鉢植えの化粧砂が蠢いていた。  その砂が徐々に、ひとつのカタチを描いてゆく。 「これは……!?」  エリカさんも目の前で起こっている現象に釘付けになっている。  写真の上に現れたのは、砂で描かれた十字架のカタチだった。  それも写真に写るエリカさんの上で、そのカタチを描いていた。  以前に聞いたことがある──これはクラドニ図形というものだ。  クラドニ図形とは、音の振動で砂を震わせると、水平な板の上に幾何学的な模様が現れるのである。  ”神の指紋”とも呼ばれる神秘的な現象だ。 「な、なにこれ……心霊現象なの!?」  身を震わせる彼女をよそに、私は写真に写るその姿に眼を奪われていた。 「と、とにかく、この写真はもらうわよ」  彼女がそう言って、砂を払い落として写真を奪った。  足早に部屋を出ようとする彼女の前に、私は立ちはだかった。
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