5人が本棚に入れています
本棚に追加
「それだから卯月が勘違いするのよ」
勘違い……どういう意味ですか?
「卯月はあなたを憐れんでいたという意味よ!」
その声に驚いたヨウカンが、「なぁう」と鳴きながらテーブルの上で跳ねた。
毛糸バッグに爪を立て、サボテンの鉢植えを倒しながら、尻尾を太くして逃げる。
私は慌てて毛糸バッグを拾おうとして、テーブルに落ちた一葉の写真に眼を留めた。
──とんとんとん──と、あの人がリズムを奏ではじめる。
その規則正しい律動に従って、写真の上にばらまかれた鉢植えの化粧砂が蠢いていた。
その砂が徐々に、ひとつのカタチを描いてゆく。
「これは……!?」
エリカさんも目の前で起こっている現象に釘付けになっている。
写真の上に現れたのは、砂で描かれた十字架のカタチだった。
それも写真に写るエリカさんの上で、そのカタチを描いていた。
以前に聞いたことがある──これはクラドニ図形というものだ。
クラドニ図形とは、音の振動で砂を震わせると、水平な板の上に幾何学的な模様が現れるのである。
”神の指紋”とも呼ばれる神秘的な現象だ。
「な、なにこれ……心霊現象なの!?」
身を震わせる彼女をよそに、私は写真に写るその姿に眼を奪われていた。
「と、とにかく、この写真はもらうわよ」
彼女がそう言って、砂を払い落として写真を奪った。
足早に部屋を出ようとする彼女の前に、私は立ちはだかった。
最初のコメントを投稿しよう!