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「な、なにっ?」
あなたが卯月さんを殺したのですね?
「ど、どういうこと!? あんなインチキであたしを告発するつもり?」
あの人が、あなたが犯人だと告げているからです。
「あの日は旅行に行っていたアリバイがあるのよ! なにか証拠はあるの?」
眼を吊り上げて叫ぶ彼女に、私はおもむろにヨウカンを指差した。
「あ、あの猫がっ……一体なんだと言うの!?」
証拠は猫ではありません。あなたが犯人だという証拠は、猫がくるまっている赤いマフラーの方です。
それは写真に写っている、彼女が身につけた赤いカシミヤのマフラーだった。
マフラーを手に取ると、そこにはエリカの花の刺繍があった。
「……ッ!?」
あのマフラーは事件当日に、ヨウカンが台所の窓から抜け出して外から拾ってきた物です。
旅行していたあなたが、なぜあの日にマフラーを落とせたのですか?
「それは……」
なぜ、あの人を殺したのですか?
「……あなたが悪いのよ」
彼女がそう言って、吊り上げた眼で私を睨んだ。
「大病院の一人娘であるあたしより、事故で声が不自由になった構音障害のあなたを、卯月が選んだからよ!」
私はその言葉を聞いて、手書きでコミュニケーションが出来るタブレットを持ったまま凍りついた。
「言語聴覚士である卯月が、患者であるあなたに心を奪われたのが許せなかったのよ!
あなたの部屋の前で待っていた卯月と口論になって、あなたを選んだことを聞いて、それで錯乱して突き飛ばしたら……」
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