恋しさのカタチ──奇跡の街にネコが降る・番外編

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恋しさのカタチ──奇跡の街にネコが降る・番外編

 雪は降り止まなかった。  赤いマフラにくるまったヨウカンが、小さく「みゃあ」と鳴く。  きっと、あの人を探しているのだろう。  もう仔猫と呼べないほど育った。ちょっと人見知りのする悪戯な黒猫だ。  あの人と出逢ったのは、このヨウカンを拾った花咲く頃だった──。  星降町にある緑豊かな公園に、一本のハナミズキの木がある。白い花を咲かせる小さな木。  その横にある小さなベンチで、小さいけれど心に届く声で仔猫が鳴いていた。  私にはそれが、「ここで生きているよ」と聴こえて足を止めた。 「こんな綺麗な公園に仔猫を捨てるなんて」  非道いな、と男の人の声がした。  その声がとても心に響いて、それで私はハッとして振り向いた。  そこに、あの人がいた。細いフレームの眼鏡が頼りなげで、風になびく猫毛の髪が柔らかそうで、それが優しい声にとても似合っていた。  その人が地面に手をつきながら「ちっちっちっ」と呼んで、ベンチの下から変わった毛並みの仔猫を抱き上げた。 「この人がお前を見つけてくれたんだぞ」  あの人がそう言って、「みぃ」と鳴く黒に赤みを帯びた羊羹(ようかん)色の仔猫に挨拶をした。  その仔猫私が飼います、と告げると、あの人が顔を綻ばせて笑った。その笑顔がとても倖せそうで、見ている私まで心に温かな風が吹いた。 「羊羹色をしているから、ヨウカンと名づけよう」  仔猫を「高い高い」しながら、あの人が無邪気に言った。
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