平成31年11月29日 6時12分

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 ホトトギスの香りに包まれながら、晴惹がいなくなって四回目の朝を迎えた。 「晴惹、今年で21歳になったな」 ベランダに声が響く。晴惹の笑い声が聞こえてくる気がする。 一人の朝は寒い。毛布にくるんでいても、寒い。 四回目。けど、まだ慣れないんだよ。一人で朝を迎えるのは。 いや、慣れちゃいけないのかもしれないな。 「永遠にあなたを愛しています」 そういって朝日が昇ったら、ホトトギスを花壇に植える。  就職して四年になった。 大学には進学しないで、働く道を選んだ。 晴惹と行こうと約束していた大学は、受験したけど辞退した。 晴惹のいない世界で、 生きることが辛かった。 現実を、受け入れられなかったんだと思う。 今は、介護福祉の仕事をしている。 仕事は決して楽ではないが、やりがいを見いだせるいい仕事だ。 仕事して、帰ったらご飯を食べて、寝るだけのルーティーンの毎日。 毎日の楽しみは ホトトギスの成長を確かめること。 世話をするときは 嫌でも思い出すけれど それでも、晴惹の笑顔が浮かぶから。 仕事が終わって家につく時間は18時を過ぎる。家まで、徒歩二十分。 いつも通りの道を通って歩いていると、見覚えのある姿が見えた。 色素が薄い茶色の髪の毛に、真っ白な肌、華奢な肩。 この、かおり。 俺の目の前すぐ歩くこの人は……。まさか。 気づけば、走り出していた。 気づけば、手を掴んでいた。 まさか、いるはずもないのに。 なんで。 なんで なんで。 「はる、ひ……?」 あんなにも愛していた。 助けたかった。 会いたかった人物が、 今、ここにいるんだろう。
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