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それは、年の瀬も迫ったある冬の日のことだった。
「……ん?」
今日も今日とて、顔見知りの女の子に振られた学校からの帰り道、少年は不思議な声を耳にした。
いや、耳にしたというよりは、頭の中に直接響いたと表現した方が適切かもしれない。
――けて。
それは可憐な少女のような、声変わりしていない少年のような、性別不詳な声だった。
突然の出来事に対して少年は、驚くことも取り乱すこともなく、ある結論を導き出した。
これは少女の……いや、美少女の声に違いない、と。
――お願い――どうか――。
少年があれこれ思考を巡らせている間にも、不思議な声は断続的に聞こえていた。
何を言っているのか、正確にはわからないが、必死に何かを伝えようとしていることは理解できた。
(美少女が俺に助けを求めている……? ならば、助けに行くのが男の定めってもんだろう! 今行くぞ!)
何の根拠もないというのにそう勝手に結論づけ、決意を胸に、一も二もなく少年は駆け出した。
特にあてはないが、とにかく走る、全力で。
漫画、アニメ、ゲーム、幼い頃からありとあらゆるサブカルチャーに触れてきた少年は、気がついた時には重度のオタクになっていた。
ただでさえ夢見がちなところがあり、恋愛経験皆無の上、そのくせ無類の女好きという業まで背負った少年に、三次元の女性の心の機微なんてわかるはずもなく。
この世に生を受けて十七年、一度としてその恋が実ったことはなかった。
女性が好むドラマ、漫画、様々なものを研究し、頭に叩き込んで告白に臨んでいるというのに、首を縦に振ってくれた女性は未だゼロ。
口を開けばキモイだの、黙っていればまだ見れる顔だの言われ、愛を告げれば色情魔死ねと罵られてきた少年の心は、いっそ二次元の理想的な美少女たちに一生を捧ごうかと本気で思う程には折れかけていた。
謎の声が聞こえてきたのはそんな時だった。
少年は確信していた。
オタク知識という名の第六感が告げているのだ。これは間違いなく、異世界召喚である、と。
異世界召喚。
それは、別世界の何者かが、様々な思惑を胸に他世界の存在を喚び出すという、ファンタジーものの作品ではよく見かける内容だった。
少年も、自分にもいつかはそんな日が来ることを期待していなかったかと言えば嘘になる。
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