第二話『プリティ・ウーマン』

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「待て待てっ! なんでそこに千映さんが出て来るんだよ?」 「だって、うちの映画館にはあなたと私と千映さんしかいないし。あ、今はクロサワさんもいるけど、そっちがヒロインのほうがよかった? 猫耳だよ?」 「そりゃ、猫だから猫耳だろうね。でも、猫は恋愛対象にはならないんだ。それ以前にクロサワさんはオス猫だろ?」 「それなら残ったのは私だけど、私はゾンビになって、あなたを食い殺す役をやりたいの」 「怖いこと言うなよ」 僕はガラスケースの上にいるクロサワさんの頭を撫でる。 クロサワさんは金色の目を細くして、黒い尻尾を動かした。 「それで、ヒロインの千映さんはまだ戻って来ないの? 昼からずっといないよね?」 「近所のお店にポスターを貼ってもらえるようにお願いに行くってさ。その後に隣町の映画館で映画を観ているはずだよ」 「あーっ! 新作の観たい映画があるって、前に言ってたっけ。たしか、戦車アニメの4DX(体感型映画上映システム)だったかな」 「うん。今日は僕以外にも君がいたからね。久しぶりに映画館で映画が観れるって喜んでいたよ。なんか、評判のいい映画らしくて、すごく期待してた」 その時の千映さんの笑顔を思い出す。 まるで、大好きなオモチャをもらえた子供みたいな瞳だった。 本当にあの人は映画が好きなんだな。 「あっと、じゃあ、私もそろそろ帰るよ。あんまり遅くなると親が心配するから」 亜里沙さんがクロサワさんを抱き上げた。 「次は『サイレントヒル』を貸してあげるから。レッドピラミッドシングはサイコーだけど、他のクリーチャーもいいよ。ダークナースとかクリーパーとか」 「ははっ、じゃあ、期待しているよ」 僕は手を振りながら、亜里沙さんとクロサワさんを見送った。
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