第二話『プリティ・ウーマン』

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「困った姉ですけど、どうか、よろしくお願いします」 もう一度、千映さんは深く頭を下げる。 「ところで、姉が話していたことですけど…………」 「美亜さんが話していたこと?」 「…………はい。私が戻って来る前に」 「あーっ、ほくろのこと…………」 「…………ほくろがどうかしました?」 千映さんの目が針のように細くなった。 唇の両端が吊り上がって笑みの形を作っているけど、彼女が笑っていないことに僕は気づいた。 「あ…………」 「悠人さん…………」 「は、はい」 「ほくろの話なんか聞いていませんよね?」 「…………はい。なにも聞いていません」 「それならいいんです」 千映さんはパンと両手を胸元で合わせて首を傾ける。 「それじゃあ、試写室の掃除を終わらせちゃいましょう」 「は、はい」 僕は掃除道具を取りに事務室に向かった。 いつの間にか、背中に汗が滲んでいる。 あれ? 今、『死霊のはらわた』と同じぐらい怖かった気がしたけど…………。
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