第二話『プリティ・ウーマン』

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僕は車を下りて麗華さんを追いかける。 周囲に歩いている人は少なく、あまり近づきすぎると尾行がばれそうだ。 麗華さんの足が止まり、道路沿いにある花屋に視線を向けている。 あの店で買い物をするつもりなんだろうか? 数分後、麗華さんは花屋に立ち寄ることなく、また歩き出した。 あれ? お見舞いの花を買うわけじゃないのか。 僕は麗華さんの行動に違和感を覚えていた。 親が癌で入院しているのに見舞いに行く様子はないし、時間を気にしている様子もない。 だけど、あんまり楽しそうじゃないな。 「目的がある外出じゃないのか…………」 「お…………お待たせ!」 美亜さんが息を弾ませて僕の肩を叩いた。 美亜さんの顔は青白くなっていて、茶色に染めた髪の毛が乱れている。 必死に走ってきたんだろう。口から白い液体が垂れていた。 「大丈夫ですか? 『死霊のはらわた』の死霊みたいになってますよ」 「い…………一度、牛乳が口の中まで逆流…………したの。張り込みの時に…………牛乳なんて…………飲んだらダメ…………」 唇についた牛乳を手の甲で拭いながら、美亜さんは僕に体を寄せる。
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