第二話『プリティ・ウーマン』

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僕の心配をよそに、美亜さんは調子に乗って投資会社の社員のふりを続ける。 「とにかくさー、社長も甘いんだよ。この世紀末の世の中、株価なんてどうなるかわからない。リスク管理を徹底して、コンセンサスにエビデンスして、結果にコミットしないと」 「あ…………ああ」 僕は額に浮かんだ汗を拭って美亜さんの後ろにいる麗華さんを見る。 麗華さんは僕たちの会話に興味がないようだ。 注文していたアイスコーヒーを飲みながら、スマートフォンの画面を見ている。 十分後、店員さんが僕たちのテーブルにパスタとサラダを持ってきた。 牡蠣とベーコンのクリームパスタが平べったい皿の中央に綺麗に盛られている。 牡蠣の香りが僕の鼻腔を刺激する。すごく美味しそうだ。 ちょうどいいや。これで架空の仕事の話を打ち切ろう。 「まあ、仕事の話はこのへんにして、食べようよ」 「そうね。じゃあ、いただきます」 美亜さんはフォークを手にしてパスタを食べ始めた。 さっき、牛乳が逆流したとか言ってたのに、もう食欲があるのはたくましいな。
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