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「私は寺中チーフから、三台盗まれていたって聞いたよ」
「あ、そっか。台数までよく覚えていなかったからな」
「とにかくさー、怪しい人はいっぱいいるよ。正社員の人を減らしたいと思っている藤崎店長も怪しいし、オーディオ担当の佐々木さんは家のローンで苦しんでいる。他にもお金に困っている人はいっぱいいるから」
「それなら、逆に怪しくない奴っていないか?」
「ここにいる三人は怪しくないと思うし、雪村さんも犯人じゃないかな。だって、犯人なら、在庫チェックをごまかせるからね」
「あーっ、そりゃそうだな」
梶原君はため息をついて、僕に視線を向ける。
「瀬川さんは犯人が見つかったら、会社を続けるんですか?」
「…………いや、どっちにしても辞めるよ。それを会社も望んでいるみたいだしね」
「でも、寮住まいっすよね? 実家に戻るんですか?」
「実家には戻らないよ。親と折り合いが悪くてさ」
開いていた僕の手がこぶしの形に変化する。
「まあ、なんとかするよ。住み込みの仕事もあると思うし」
「…………やばい状況になったら、電話して下さいよ。助けられるかもしれませんから」
「私にも連絡して下さい。新しい仕事先も一緒に探しますよ」
「…………ありがとう、二人とも」
目頭を熱くして、僕は二人に深く頭を下げた。
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