第二話『プリティ・ウーマン』

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「…………千映さん」 「はい。なんでしょう?」 千映さんが水面のように揺れる瞳を僕に向けた。 知性と純粋さが混じり合った瞳が僕の心を覗いているような気がする。 「…………いえ。なんでもありません」 僕は千映さんの視線を避けるように頭を下げた。 僕が千映さんと出会ってから、まだ一ヶ月も経っていないんだ。 身内でもない僕が千映さんの死んだ両親のことを聞けるわけがない。 それなのに僕は安易に聞こうとした。 千映さんがつらく苦しんだであろう出来事を…………。 「すみません。顔を洗ってきます」 僕は千映さんに背を向けて映写室を出た。 千映さんに僕の心を読まれないように。
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