第二話『プリティ・ウーマン』

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「そんなことはありません」 突然、千映さんが口を開いた。 「原田さんは素晴らしい小説を書かれるじゃありませんか」 「小説?」 「はい。新作の小説『純粋な白』を読ませていただきました」 「わざわざ読んでくれたのかい?」 原田さんがぱちぱちとまぶたを動かす。 「小説家として作品を読んでもらえることは嬉しいけど、事情を知っている君たちに読まれるのは少し恥ずかしいよ。小説のモデルにした僕と麗華が破局したことを知られているからね」 「いえいえ。素敵な純愛の物語でした。キャバ嬢の麗華さんの献身的な愛は読者の心を温かくさせますね。ラストの結婚式は感動でうるっときちゃいました。きっと、多くの人が自分も麗華さんのように、純粋な気持ちで人を愛したいと思ったんじゃないでしょうか」 「小説の中の麗華は僕の理想だったからね。でも、現実は違っていた。いや、麗華だけじゃない。君だって恋人が金持ちなら嬉しいだろ?」 「…………そうですね。私は俗物的なところもありますし、お金の大切さもわかっていますから、恋人がお金持ちなら嬉しいと思うでしょう。でも、そうじゃない女性もいます。お金なんて関係なく、原田さんを愛している女性が」 「お金なんて関係なく…………ね。そんな女性がいるのなら僕に教えてくれよ。そんな理想の女性の名前をさ」 「麗華さんですよ」 「…………えっ?」
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