202人が本棚に入れています
本棚に追加
梶原君と石川さんは僕に手を振って歩き出した。
歩きながら喋っている二人の後ろ姿を見て頬が緩む。
二人が恋人同士なんて、全然気づかなかったな。
それに、こんなに自分のことを気にしてくれるなんて。
そんな二人を僕は疑ってしまった。
両手の平に爪が食い込み、痺れるような痛みを感じる。
デジカメを盗んだ犯人なんて、誰にもわかるわけがないのに。
結局、僕が犯人にされて、最悪の場合、警察に捕まる。
そうでなくても、ホームレスになって、飢え死にか…………。
運よく新しい仕事が見つかるかもしれないけど、その可能性はゼロに近いだろうな。
「希望なんて、持たないほうがよさそうだ」
「希望は必要ですよ」
突然、背後から鈴の音のような声が聞こえてきた。
振り返ると、目の前にA4サイズのチラシの束を持った女の人が立っていた。
年は十代後半だろうか、白いシャツにぶかぶかのダッフルコートを着ている。
艶のある長い黒髪と夜の湖面のように揺れる瞳は透き通った白い肌と対比して、星の瞬く夜空より黒く見えた。
その左目の下には印象的な泣きぼくろがあった。
最初のコメントを投稿しよう!