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「じゃ、じゃあ、重要な相手役のモーガン・フリーマンは知ってますよね? 『ミリオンダラー・ベイビー』でアカデミー助演男優賞を受賞した名優です。サイコ・サスペンスの傑作『セブン』でベテラン刑事を演じていたでしょ?」
「いや…………どっちの映画も観たことがないので」
「…………あ、ありえないです」
女の人の体ががくがくと震え始めた。さっきまで桜色だった唇が青白くなっている。
「そんなに驚くことですか? 映画なんて、観ていない作品のほうが多いでしょ? 僕は映画館にも行ったことがないですよ」
「…………映画館に行ったことが…………ない?」
「変ですかね? 今はネットで映画を観ることもできる時代だし、そのほうが安くていいでしょ?」
「…………」
僕の質問に、女の人は答えなかった。
まるで宇宙人を見たかのように大きく両目を開き、唇を半開きにしている。
そこまで、ショックなことなんだろうか?
数十秒の沈黙の後、女の人は僕に背を向けて、ふらふらと上半身を揺らして歩き始めた。
「あ、あのっ…………」
僕の呼びかけにも女の人は反応しない。そのまま、人混みの中に消えていった。
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