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「何なんだ? あの人は?」
映画にすごくこだわりがあったみたいだけど…………。
いや、それよりも、あの人、僕の思っていることがわかった。
宗教の勧誘と思ったなんて、口にしてないのに。
まさか、超能力者か宇宙人なんてことは…………ないか。
綺麗な女の人だったけど、性格は変だったな。
ふと、足元を見ると、A4サイズのチラシが一枚、落ちている。
僕は彼女がチラシの束を持っていたことを思い出した。
「あの人が落としたのか…………」
チラシを拾い上げると、雨に打たれている後ろ姿の男の写真が印刷されていた。
男は上半身をそらし、両手を左右に広げている。
オレンジ色の光が男の輪郭を浮かび上がらせている光景は力強さと美しさが混じり合っているように思えた。
チラシの下部にはさっき女の人が口にした『ショーシャンクの空に』の文字が白抜きで印刷されている。
「セリフを覚えているぐらい、この映画が好きなのか」
そうつぶやきながら、僕は頭をかく。
そういや、レンタルビデオ店で映画を借りたこともなかったな。
テレビでやっていた映画を途中から観たことはあるけど、タイトルも覚えてないや。
もともと、映画やドラマに興味もないし。
「…………これからも映画を観ることはないだろうな」
そうだ。ぼんやりとしている時間はないぞ。
新しい仕事を早く見つけないと!
僕はチラシを折りたたんでポケットに入れ、冷たくなった頬を両手で叩いた。
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