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突然、黒猫が僕の曲げていた膝の上に乗り、滑るようにして僕の腹部に移動した。
そのまま、背中を丸めて顔を僕の腹部に押しつける。
「お、おい!」
黒猫の背中に手を置くが、猫が逃げる気配はない。
手の平に感じる生き物の温かさに、立ち上がろうとする気がなくなった。
どうやら、この黒猫は人に慣れているのだろう。
僕は尾道が猫の町と呼ばれていることを思い出した。
「湯たんぽ代わりにちょうどいい…………か」
僕は黒猫の喉を人差し指で擦った。
ゴロゴロと喉を鳴らす音が聞こえてくる。
「もしかして、僕を助けてくれようとしているのかな?」
僕の問いかけに黒猫が答えることはなかったが、そんな気がした。
最近は運に見放されていると思っていたけど、たまにはこんな幸運が僕に訪れてもいいだろう。
ささやかな幸運だけど。
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