第一話『ショーシャンクの空に』

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「あのぉー、瀬川さん…………瀬川さん…………」 自分の名前を呼ぶ声に、僕は重いまぶたを開いた。 目の前に、黒のニットジャケットとマーメイドスカートを着た女の人がいた。 「…………あ、あれ? あなたは…………」 目をこすりながら、僕は彼女を見上げる。 その人は一週間前に千光寺公園で出会った女の人だった。 「あれ? 僕…………あなたに名前を教えましたっけ?」 「クロサワさんが教えてくれたんですよ」 「クロサワ…………さん?」 「ええ。あなたのお腹の上にいる方です」 そう言って、女の人は僕の腹部で眠っている黒猫を指差した。 「クロサワさんは地域猫で、みんなに可愛がられているんですよ」 「そうなんですか。でも、何で、さんづけで呼ぶんです?」 「私が名前をつけたからですよ。尊敬する監督から名前をとったから、さんづけになっちゃうんです」 「そんな名前の野球監督っていたかな?」 「映画監督ですっ!」
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