第一話『ショーシャンクの空に』

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「あ…………すみません。こんなところで寝ていたら、営業妨害でしたね。ありがとう、クロサワさん。おかげで、凍死しなくてすんだよ」 そう言って、黒猫を地面に下ろす。 「じゃあ、僕はこれで…………」 朝霧さんに頭を下げて、僕は空き地から出た。 ふと、右を見ると、赤煉瓦風の三階建てのビルの壁に、雨に打たれている後ろ姿の男のポスターが貼ってあった。 「あ…………これ…………」 「ええ。『ショーシャンクの空に』のポスターです」 背後から朝霧さんの声がする。 「今、うちの映画館で上映しているんですよ」 「えっ? 上映って、これは昔の映画なんですよね? たしか、一九九五年に何かの賞にノミネートされたって、朝霧さんが言っていたような…………」 「千映でいいですよ。商店街の皆さんは、みんな、そう呼んでいますから」 そう言って、千映さんはにっこりと微笑む。
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