第一話『ショーシャンクの空に』

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たしか、残っている金は千三百二十円だったな。 なんとか払える金額だけど、残り二十円で土、日を過ごすのは無理だ。 こんな状況で映画を観るなんて、それこそ、映画マニアでもやらないだろう。 「…………じゃあ、観てみます」 思っていることと違う言葉が僕の口から出た。 「ありがとうございます。大人一枚ですね」 満面の笑みを浮かべて、千映さんは頭を下げる。 どうやら、千映さんは僕の葛藤に気づかなかったようだ。 いつでも人の心が読めるわけではないのか。 それとも、映画のことになると、熱くなって周りが見えなくなるのかもしれない。 本当に不思議な人だな。
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