202人が本棚に入れています
本棚に追加
たしか、残っている金は千三百二十円だったな。
なんとか払える金額だけど、残り二十円で土、日を過ごすのは無理だ。
こんな状況で映画を観るなんて、それこそ、映画マニアでもやらないだろう。
「…………じゃあ、観てみます」
思っていることと違う言葉が僕の口から出た。
「ありがとうございます。大人一枚ですね」
満面の笑みを浮かべて、千映さんは頭を下げる。
どうやら、千映さんは僕の葛藤に気づかなかったようだ。
いつでも人の心が読めるわけではないのか。
それとも、映画のことになると、熱くなって周りが見えなくなるのかもしれない。
本当に不思議な人だな。
最初のコメントを投稿しよう!