第一話『ショーシャンクの空に』

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千映さんが少し寂しそうな顔をした。 「それは残念です。でも、そんな悠人さんが一本でも映画を観る気になってくれたのは嬉しいかも。しかも、私の映画館で」 「ああ、そういえば、オーナーって言ってましたね」 「ええ。亡くなった祖父が残してくれた大切な映画館なんです」 そう言って、千映さんは白いスクリーンに視線を動かす。 「この映画館で祖父が私の子守をしてくれていたんです。と言っても、私は隅っこの空いた席で大人しく映画を観ていて、手間はかからなかったみたいです。字幕の文字も読めませんでしたけど、何度も同じ映画を観ていると、筋がわかるんですよね」 「だから、映画が好きになったんですね」 「そうですね。私は映画が好きになる環境で育ちました。でも、それだけじゃないんです。映画は人生なんです!」 「人生?」 「はいっ! 映画を観ている間、私は別の人生を送ることができるんです。冒険者になって宝探しをしたり、刑事になって犯人を追い詰めたり、ロマンチックな恋愛も体験できるし、地球を救うこともできます。行ったことのない外国の土地を見ることもできるし、宇宙や異世界にも行けるんです!」 黒曜石のような瞳の輝きが増した。
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