第一話『ショーシャンクの空に』

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鈴の音が鳴ったような声に、僕の体温が上がったような気がした。 普段の柔らかい声も悪くないけど、こうやって口上を述べる声も張りがあって心地よい。と…………やばい。 僕は慌ててポケットからスマートフォンを取り出し、電源を切る。 「それでは、皆様! 素晴らしき映画の世界をご堪能下さい!」 千映さんは、優雅にお辞儀をして、スクリーンから離れる。 十数秒の静寂の後、スクリーンに映像が映し出された。 まずは上映中のマナーの説明みたいだ。 コミカルなアニメキャラクターが僕に話しかけるように喋っている。 いつの間にか、千映さんと亜里沙さんがいなくなっている。 上映中にも、当然、何かの仕事があるんだろう。 僕はサービスでもらったポップコーンを口に入れた。 塩とバターの味が口の中に広がっていく。 昨日の夜から何も食べていないせいか、すごく美味しく感じる。 ペプシコーラを飲みながら、夢中でポップコーンを食べていると、予告編が終わり、英語の歌が流れ出した。 『ショーシャンクの空に』が始まったようだ。 名作って言われているらしいけど、昔の作品みたいだし、本当に面白いのかな? 僕は飲みかけのペプシコーラをカップホルダーに置いて、正面のスクリーンに集中した。
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